諸 言
健康人における口腔内の清掃は、歯ブラシ、歯間ブラシやタフトブラシなどを用いてセルフケアにより実施される。しかし、周術期や要介護高齢者における口腔管理では、術前の歯科衛生士による機械的歯面清掃や、看護師ならびに介護士などの介助者による入院中の舌および口腔粘膜の清掃が実施される。
特に口内炎が多発するがんや造血幹細胞移植時の患者等では、感染管理の面から口腔粘膜清掃が重要であり、その際には口腔ケア用スポンジブラシ(SB)が使用される。また、がんの周術期や要介護高齢者における口腔管理は、誤嚥による発熱や肺炎の予防につながり、全身管理のうえからも重要な項目として注目されている。
これらの患者では、服薬による唾液分泌の低下や人工呼吸器の装着、経管栄養のチューブ装着などにより、口腔内が乾燥する場合が多く、唾液による自浄作用が低下することから口腔粘膜が汚れやすくなるため、SBによる口腔清掃が必要となる。SBは感染管理上、使い捨てとなっているが、現場では複数回使用する場合も見受けられる。そこで、本研究では、SB使用後のSBへの付着菌数を明らかにすること、およびSBの洗浄、水切りの有無、SBのキメの粗さ、さらに乾燥時間が付着菌数におよぼす影響を細菌学的に評価したので報告する。
考 察
SBは感染管理上、使い捨てとなっている。しかし、使用後の洗浄により、外観上、使用前のものと同じように見えることやコスト面から、SBを複数回使用する場合も見受けられる。しかし、SBはスポンジの構造上、小孔が多数存在し、使用後は口腔内の細菌が小孔内に残存することが予想される。SBに付着した口腔内細菌は、通常臨床現場で実施可能な条件として想定した洗浄および乾燥により、ある程度菌数が低下することが示されたが、完全に除去することはできなかった。また、分注水洗浄よりも流水洗浄のほうが10倍以上、付着菌数が低下したが、流水洗浄後でも104CFUレベルの菌数を検出した。
洗浄後から4時間乾燥後においては、同様に流水洗浄のほうが付着菌数は低下したが、菌数レベルは103CFUレベルであった。十分な乾燥によるSBの付着菌数は、72時間後で、約103CFUレベルで検出され、完全に細菌を除去できなかった。
2012年イギリスでは、繰り返し使用していたスポンジブラシヘッド部分の脱落による飲み込みのために窒息、それに伴う死亡事故が発生しており、口腔ケアに用いるスポンジブラシの繰り返し使用を禁止している。本試験における使用後のスポンジブラシの細菌学的な見地からは、感染リスクを高める可能性があることから、またスポンジブラシヘッド部分の飲み込みのリスクも加え、スポンジブラシの使い捨てを徹底することが重要である。
結 論
口腔用スポンジブラシの使用後の付着菌数は、洗浄や保管条件により低下するが、完全に除去することは困難であった。スポンジブラシの再使用は感染リスクを高めることから、使い捨てを徹底することが重要である。