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食で内からすこやかに 分科会・健康な食事術 健康・医療フォーラム

今は軟らかくて栄養価の高い食物が簡単に手に入るため我々はあまりかまなくなっている。弥生時代の食事は完食するまでに4千回近くかまなければならないが、現代の食事は600回ぐらいで完食できる。このことは現代の食事が軟らかくなっていることを示すだけでなく現代人の咀嚼(そしゃく)能力が昔の人より落ちていることを意味している。

 だから、よくかみましょうと言われて久しい。それ自体は悪いことではない。健康維持のため身体機能を適度に使うことは必要。だが人によって状況は違い、適した度合いがわかりにくい。実際に歯科で咀嚼能力を測って、その上で適度なものを決めてもらうのが、一番いい方法だろう。

 食物を口に取り込んで嚥下(えんげ)をするというのは、運動学的には非常に高度な運動だ。それゆえ、よくかむと脳が活性化する、若返ると言われる。だが咀嚼運動をすること自体は、我々が期待するほど脳を使わない。もともと脳にある回路を使う半自動運動だ。

 ただ、咀嚼する時には色々なものを認知し、それが様々な脳活動を起こしている。

 例えば動物が餌を食べてから10分以内に、ぐーっと血液中のブドウ糖の濃度が上がるという実験結果がある。この上昇は、食べた食物が腸まで行って吸収された結果ではない。餌を食べたことを動物が認知し、すでに蓄えられていたものが肝臓から放出され血中に出てきている。

 だからよくかんでたくさん認知すると、満腹中枢が活性化し至福感ももたらす。よくかむとダイエットになるというのは、この理屈。

 食事をしてしばらくするとぽかぽか体が温かくなってくる経験が誰でもあると思うが、これも、口から食べて認知することから生じる。唾液(だえき)の分泌を促し、口を守り消化を助ける作用もある。

 我々は物を食べているときに見た目や味、歯触り、物の温度といった色々なものを感じ、記憶にとどめる。味わい、のみ込むことで満足感を得る。この繰り返しで食の記憶が形成されていく。運動のためによくかむのではなく、味わい、記憶にとどめるための咀嚼が大事だ。