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声帯摘出、再び話せた 食道を振動させる発声法 「生きがいも取り戻す」

音楽プロデューサー、つんく♂さん(46)の声帯摘出公表をきっかけに、声帯の代わりに食道を振動させて声を出す「食道発声法」に注目が集まっている。声が出なくなれば生活に大きな影響を及ぼす。声帯や喉頭の摘出後、発声法を身に付けた人たちは、声ばかりか「生きがいも取り戻せた」と喜んでいる。

 「お茶を口に含んで空気と一緒に食道に取り込み、『あ』と、声を出してみましょう」

 声を取り戻そうとする人を支援する「銀鈴会(ぎんれいかい)」(東京都港区)の発声教室。「初心クラス」の男性に、自らも声帯を摘出して発声法を習得したボランティアの訓練士が、マンツーマンで指導に当たっていた。週3回開かれる教室には、喉頭がんや咽頭がん、食道がんなどで声帯や喉頭を摘出した約150人が通う。

 通常、声を出すためには、吸い込んだ空気を肺から吐き出し、喉頭にある声帯を振動させる。

 同会によると、食道発声法では食道に取り込んだ空気を、げっぷを出す要領で逆流させ、食道の入り口の粘膜を振動させて声を出す。練習を重ねれば、多くの人が1年ほどで会話できるようになるという。

 「最初は母音の発声から始めて、声が出せたら徐々に言葉の数を増やしていきます」と銀鈴会会長の松山雅則(まつやま・まさのり)さん(71)は話す。松山さんも58歳の時に喉頭がんで摘出手術を受け、食道発声法で声を取り戻した。

 がんが見つかって治療を受けたが、再発が判明。悩みに悩んで摘出を決断するまでが最もつらかったという。「食道発声法で初めて声を出せた時の喜びは、言葉で言い表せない。それからはどんどん練習が楽しみになった」と振り返る。

 手術で摘出した部位などにより個人差はあるが、スポーツ選手や腹式呼吸に慣れた音楽家は比較的上達が早いという。中には3カ月ほどの練習で会話できるようになる人も。上達すると歌が歌えるようにもなり、歌の発表会も開かれている。

 銀鈴会のような、全国約60の支援団体を統括する「日本喉摘者(こうてきしゃ)団体連合会」によると、同会所属の喉頭摘出者約7千人のうち、約5千人が食道発声法で会話をしているとみられる。年齢が若いほど習得率が高い傾向があるという。

 下咽頭がんで手術を受け、食道発声法を習得した銀鈴会専務理事の太田時夫(おおた・ときお)さん(70)は穏やかな声で語る。「教室で同じ境遇の仲間と練習に励んでいるうちに、不安や孤独感は消えていった。声を再び出せるようになり、生き生きと生活できるようになりました」

 ※声帯摘出後の発声方法

 食道を振動させる食道発声法の他に、電動式の人工喉頭を喉に当てて振動を音声に変換する方法、気管と食道を結ぶシャント手術で発声する方法がある。食道発声法は比較的自然な発声が可能で、器具に掛かる費用が必要ないといった利点があるという。