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血液、唾液でがん早期発見 現行の検診、受診率低く 実用化向け研究

血液や唾液などから早期のがんを精度良く見つける検査方法の研究開発が盛んだ。実用化には課題もあるが、臨床研究などの計画も進む。現行のがん検診の受診率が伸び悩む中、受診者の負担が少なく簡易にがんを発見する技術に関心が高まっている。

 昨年度から国の支援で、健康診断の採血で早期がんを見つけようという大規模プロジェクトが進む。国立がん研究センターや東レなど9機関が参加する。血液などに含まれるがんと関わる物質は「腫瘍マーカー」と呼ばれ、約40種類見つかっているが、主に進行がんの治療効果を判定するために使われてきた。

 ●発症で変動する物質

 プロジェクトが標的にするのは、細胞から分泌される「マイクロRNA」と呼ばれる物質。ヒトのマイクロRNAは2500種類以上あり、血液を調べると300~500種類見つかる。がんになると、その種類や量が変動する。カプセル状の小胞に包まれているため血液中でも分解されず、高感度で検出できる利点があるという。

 がんの種類によって特徴的に見つかるマイクロRNAがあり、これらを検出できれば、がんの種類の判別も可能になる。プロジェクトは、さまざまながんを一度に調べられる技術の開発を目指し、すでに1万5000人分以上の保存血液を分析した。責任者の同センター研究所の落谷孝広・主任分野長(分子細胞治療研究)は「乳がんと大腸がんは関係するマイクロRNAの特定をほぼ終えており、8~9割の高い精度で診断できるレベルになってきた。体外診断薬としての承認を得るための臨床試験を準備中だ」と話し、二つのがんについては来年中の承認を目指す。承認が得られれば、健康診断の場で早期がんのスクリーニングも試みる計画だ。

 厚生労働省が科学的根拠があるとして市町村に推奨するがん検診は、肺がん、胃がん、乳がんのエックス線検査、大腸がんの便検査、子宮頸(けい)がんの細胞診の5種類。だが、負担感を持つ人が多く、受診率は伸び悩む。このため、簡易ながん検査の実現への期待は大きい。

 ●難しい「膵臓」でも

 東京医科大や慶応大などのグループは、唾液の検査で膵臓(すいぞう)がんを見つける技術を報告している。膵臓がんは早期発見が難しいがんの一つ。グループは、がん細胞が正常な細胞とはエネルギーの代謝方法が異なることに着目、がん患者の唾液や血液に含まれる数百の代謝物を網羅的に解析して、健康な人と比較する研究を進めてきた。

 この結果、膵臓がん患者の唾液中で濃度が上昇する代謝物を発見した。測定方法を改善し、ステージ1の早期がんの人の唾液でも濃度の上昇が確認できたという。がんを切除後は、この代謝物の濃度が低下する人が多く、がん細胞から排出されている可能性を調べる。

 グループの砂村真琴・東京医科大兼任教授は、外科医として、進行した膵臓がんの患者を多く診てきた経験から早期発見の必要性を痛感してきたという。「唾液は採取が簡単。近く大規模な臨床試験を実施し、精度の検証や測定手順を確立し、実用化を目指したい」と語る。

 ●呼気の成分から

 呼気の成分で健康管理や病気発見を目指す動きもある。物質・材料研究機構が開発した小型で高感度の嗅覚センサー技術を元に、京セラや日本電気などが参加する共同研究体制が9月に発足した。これまでの研究で、頭頸部のがん患者と健康な人の呼気の成分の違いを識別できた。センサーを開発した同機構の吉川元起(げんき)・独立研究者は「企業などが持つ解析技術などを統合し、どこまでできるのか検証したい」と話す。