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子の薬誤飲、包装で防げ 開封しにくく一工夫 事故原因、たばこ上回り最多

子どもの誤飲事故の原因として多い医薬品。1979年の調査以来、今年初めて1位になった。重篤な健康被害につながりかねないだけに、消費者庁の消費者安全調査委員会(事故調)は包装を開けにくくするといった対策案を年内にも公表する。一方で、「高齢者が使いにくくなる」などの懸念も出ている。

 「誤って薬を飲んだ息子が立てなくなった」。2年前の8月、都内の板橋区医師会病院に当時2歳の男児が運び込まれた。

 母親の説明では、この日の午前中、常用していた抗不安薬のシートが20錠ほど空になっているのに気づき、近くにいた男児がもうろうとし始めていた。病院到着時には意識はなく、救命センターを含め計7日間入院した。

 この薬は大人でも1日2錠が上限。副作用として眠気のほか、錯乱もある。今回のように大量摂取の場合、呼吸停止の恐れもあった。薬は台所の食品のそばに保管していたという。

 誤飲防止に取り組む同病院の泉裕之院長(小児科)は「幼児には、薬とお菓子との区別は無理。保管には細心の注意がいる」と話す。

 全国のモニター病院を通して厚生労働省が行っている調査で、2015年3月に発表された結果によると、薬による子どもの誤飲は96件。誤飲事例全体の18・1%を占め、最も多かった。医薬品が1位になるのは1979年の調査開始以来初めてだという。

 うち意識障害や嘔吐(おうと)などの症状があったのは27件、入院につながったケースは7件。泉院長は「高齢化に伴って、降圧剤など子どもが飲めば命に関わる危険な薬が家庭にも増えている」と指摘する。

 ■欧米では法制化

 日本で誤飲を防ぐ対策は遅れている。中毒死が年間500件起きるなど事故が続発した米国では1970年に毒物予防包装法が制定され、すべての危険物から子どもを守る誤飲防止包装が義務づけられた。欧州でも同様の法律が2003年につくられた。これに対し、日本では法制化の動きはなく、製薬会社の取り組みに任されている。

 積極的に進めているのは大手製薬会社のグラクソ・スミスクラインだ。シートを破って押し出す錠剤タイプの場合、アルミ製のシートを厚くしたり、シールをはがさないと出せなくしたりしている。水薬の瓶のふたでは、押し下げずに回すと空転する仕組みだ。

 12年6月に抗うつ剤で導入したのを皮切りに、処方薬計11製品に取り入れている。今後、危険性が高い処方薬について順次、対策をとっていく予定という。

 厚生労働省や事故対策案づくりをする消費者庁は、これまでも家庭や薬剤師、医療機関向けに子どもの誤飲対策の必要性について注意喚起をしてきた。

 ただ、誤飲年齢は6~11カ月147件、12~17カ月130件、2歳82件と0~2歳時に集中している。このため消費者庁に常設する消費者事故調は、包装に基準を設けるなど具体策の検討を始めた。子どもと大人100人ずつを対象に、様々なサンプルについて取り出しやすさを調査し、出すのに必要な力などのデータを取ったうえで、年内にも厚労省に基準づくりを提言する予定だ。

 ■「高齢者には不便」懸念も

 乳幼児を念頭に対策を検討するなかで、課題も挙がっている。一つが高齢者対策だ。1人の高齢者の平均服用薬は4~5に上る。5月にあった厚労省の専門部会では、委員から「開けにくくなることで高齢者が薬を飲まなくなるのでは」という意見が相次いだ。

 ある大手製薬会社は、がんの痛みをとるための薬剤に、通常と誤飲対策の2種類の包装を用意している。薬剤師などから「開けにくい」という声があるためだ。担当者は「医療関係者でも理解はまだまだ。一般の方の反応はもっと厳しいと思う」と話す。

 もう一つの課題が費用だ。6月に乳がん治療薬に初めて子ども向けの誤飲対策包装を採り入れた第一三共エスファによると、「従来の包装コストより10%は高くなる」という。日本で薬価は国が決めているため、かかったコストは企業側が負わざるを得ない。

 厚労省安全使用推進室は、包装による誤飲防止対策について「高齢者や手先がうまく使えない人が薬を飲めなくなっては意味がない。事故調のデータを受けた上で、慎重に検討したい」としている。

 10年前から対策を呼びかけている国立成育医療研究センターの石川洋一・薬剤部長は「データに基づいて基準を決めれば、高齢者が開けられなくなることはない。最初は慣れなくても、啓発とともに進めれば解消する。いまのところ国内では死亡事故はないが、起きてからの対策では遅い」と訴える。