記事一覧

プロフェッショナル 仕事の流儀 「ぶれない志、革命の歯科医療 歯科医・熊谷崇②

世界が驚く 革命の歯科医 子ども8割 20歳で虫歯ゼロ!

 熊谷の診療所に通う患者の1人に神経にまで達する虫歯ができた。定期的なメンテナンスを行っていたのに、なぜ防げなかったのか、熊谷は患者の15年分の資料を見直し原因を探ると、ひとつの傾向が見えてきた。

 患者がやってくると、熊谷は虫歯を見過ごした落ち度を詫び、問題点を一緒に話していく。今後の対策としてよりチェックを厳しくすることにし、患者にも日頃のホームケアを確実に行うことを求めた。歯科医は患者の歯を守るパートナー。その責任感が熊谷を突き動かしている。

 人口11万人の酒田市、その1割以上が熊谷のもとに定期的にメンテナンスに通っている。

 熊谷は同じ歯科医の妻と2人暮らし。1度気に入ると突き詰めないと気がすまない性格。納豆の食べ方も35年研究を繰り返し、お気に入りの食べ方を編み出してきた。

“歯を守り抜く” そして世界が驚いた 革命の歯科医 闘いの35年

 熊谷は、東京下町の生まれで、父が歯科医だったことから同じ道に進んだ。その仕事に興味が湧いたのは大学5年の時に欧米の最新技術を教わった時。夢中で腕を磨き横浜に診療所を開業、難しい治療を専門に行うと患者が殺到するようになった。

 転機が訪れたのは38歳の時。開業医をしていた妻の父親が亡くなり、酒田市で歯科医院を開くことになった。しかし虫歯が多く、治療後も再発することが目に見えていた。その現状に闘志が湧いた熊谷は、歯の清掃とメンテナンスが終了するまで虫歯治療を進めないと宣言した。

 患者からすさまじい反発を受けたが方針を変えなかった。患者の多くは、初診後に来なくなり、スタッフの給料は貯金を崩し払っていた。しかし考え方を変える事が出来なかった熊谷は、予防の意識を高める資料を手作りし、最新の技術や治験を学んだ。

 患者の半数が納得するのに15年、多数派になるのにさらに5年、信念を曲げずに35年戦った成果がここにある。そして熊谷は今も模索を続け、患者の唾液からガンを発見する取り組みを共同研究している。

“虫歯にさせない”革命の歯科医 全国にネットワークを広げる

 熊谷が診療の他に力を入れているのは次世代の歯科医を育てること。熊谷のセミナーには若い歯科医が集まり2日間かけて熊谷が築いてきた予防医療を伝える。セミナーを受けていた1人の歯科医 岡は長年、総合病院で口腔外科として働いてきたが、一念発起し開業医になることを決めた。熊谷のやり方を取り入れた診療所にしたいと考えていた。

 2ヶ月後、福岡の岡は医院の開設前準備に追われていた。開業を迎えやって来た、虫歯を治してほしいという女性に、熊谷の教え通り、口の中を知ってもらうため検査を行った。手間はかかるが虫歯を根本から防ぐために清掃と患者教育を優先する。女性からは前向きな反応があった。

 しかし、一人の患者への対応をめぐり課題が浮かんでいた。部活動があるので早く治療をしてほしいという母親の要望で、決まりの検査を行わず子どもの歯を治療した。患部は取り除いたが再発を防げるか疑問が残る対応となった。

 さらに半月後、最初に訪れた女性が予定していた歯のクリーニングに来なかった。治療前に予防意識を高めるやり方は想像以上に難しい。熊谷のもとにセミナー参加者から報告があがってきた。福岡の岡も治療後にクリーニングに来なくなった女性のケースを報告していた。岡は忙しい患者にいくつもの検査をお願いすることに疑問を感じ始めていた。医療者として患者の希望に沿いたい気持ちも理解できるが、予防医療には重大な覚悟が問われる。

 セミナーに参加した歯科医が再び集まった。この4ヶ月での課題を報告していく。福岡の岡は患者から求められると治療をせざるを得ない事を説明した。すると熊谷は、すぐに治療をすることが患者の将来に本当によいことなのか、歯科医の責任を問いた。患者に予防を説くためには、何よりブレない志が必要になる。熊谷は予防哲学の説明を繰り返し続けた。岡は納得の表情を浮かべていた。

 福岡に戻った岡は動き出した。患者教育に本腰を入れるため、唾液検査の説明の仕方などをスタッフ全員で共有していく。熊谷はこの日も患者と向き合い、患者の未来を守るため戦いを続けている。