体内で分泌される「Del(デル)―1」という分子が、歯周病の治療に有効であることを新潟大大学院医歯学総合研究科高度口腔(こうくう)機能教育研究センターの前川知樹助教(34)=免疫学=らの国際研究グループが発見した。歯周病などの炎症反応を抑える上、歯の骨を溶かしてしまう細胞の働きを弱めることが分かった。この分子を体内で効率よく作る方法も導き出した。前川助教は「副作用の心配を考えると、体内で作られるDel―1で炎症と骨破壊を抑えられるのは安全性の面で意義が大きい」と話している。
歯周病は、慢性炎症の代表的疾患。歯肉炎症を起こし、歯槽骨が壊れる。歯を失う最大の原因だが、完治させる有効な治療法は確立されていない。Del―1は血中や脳内などに存在。乳幼児には多くあるが、年齢が高くなるにつれ減少する。
前川助教らは4年前に研究を開始。Del―1が、破骨細胞が活性化しないように作用することを突き止めた。サルを使った実験では、歯周病の炎症を抑え、破骨細胞の数を減らすことができた。
また、老化予防などに有効とされるオメガ3脂肪酸などからできる「レゾルビン」という化合物を投与すると、体内でDel―1が多く作られることが分かった。このようにDel―1の生成を誘導すると、歯周病だけでなく、多発性硬化症、強直性脊椎炎などの慢性炎症性疾患の治療にも有効である可能性も実験で示された。
研究成果は英学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」、米学術誌「サイエンス・トランスレーショナル・メディシン」で発表した。
広島大大学院医歯薬保健学研究院の藤田剛准教授(歯周病態学)は「Del―1が歯周組織の炎症の制御と骨破壊の抑制という両面に、効果的に作用していることを解明した点が画期的だ」と評価。「歯周病はさまざまな疾患とも関連していることから、Del―1の誘導、制御を応用した歯周治療の開発は健康寿命の延伸に大きく貢献すると考えられる」と期待した。