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肺炎予防に4項目を推奨【時流◆日本の肺炎】

今後のエビデンス構築が注目される「口腔ケア」
 肺炎球菌ワクチンについては、2014年10月から高齢者への23価肺炎球菌ワクチンが定期接種として開始されて以降、対象年齢における接種率は約20%から50%程度にまで上昇。「欧米先進国の接種率に近づきつつある」(迎氏)。

 門田氏によると、23価肺炎球菌ワクチンに関する日本の多施設前向き研究が最近報告されている。いずれも有意ではないものの、男性よりも女性、75歳以上よりも65-74歳、気管支肺炎よりも大葉性肺炎、市中肺炎よりも医療・介護関連肺炎(NHCAP)に対する予防効果(ワクチン有効性)が高いとの成績も示されている(Lancet Infect Dis 2017; 17: 313-321)。

 また、口腔ケアに関して門田氏は「ワクチンや抗インフルエンザ薬以外に、現時点で評価に耐え得るエビデンスがあるのは口腔ケアのみ。しかし、今回のガイドラインで推奨を決めるレベルである同意率70%を超えるのに3回の投票が必要となるなど、まだエビデンスが十分でないところがある」との見解を示した。

迎氏「口腔内嫌気性菌の意義解明が必要」
 今後の改訂に向け、迎氏と門田氏が注目するリサーチクエスチョンは何か。迎氏が挙げたのは「喀痰培養と遺伝子解析による結果の乖離」。日本における市中肺炎患者の喀痰検出菌として最も多いのは肺炎球菌とインフルエンザ菌。院内肺炎ではMRSAや緑膿菌が最も多いことが知られている。迎氏らの網羅的遺伝子解析による局所細菌叢に関する多施設共同研究では、市中肺炎で口腔内連鎖球菌や嫌気性菌が、NHCAPでも嫌気性菌などの喀痰培養では検出されにくい菌がこれまで考えられていた以上に関与している可能性が示されている(PLoS One 2013; 8: e63103、PLoS One 2015; 10: e0124697)。「市中肺炎やNHCAP治療において嫌気性菌までをカバーすべきか否か、あるいは院内肺炎におけるMRSA肺炎の取り扱いを、改めて検討していく必要がある」(迎氏)。

門田氏「誤嚥性肺炎の定義確立が重要」
 門田氏が挙げたのは院内肺炎、NHCAP患者への実施が推奨された「誤嚥の危険因子評価」について。門田氏らのグループが、このCQに関する推奨を決定するに当たってシステマチックレビューを実施したところ、誤嚥のリスクと誤嚥性肺炎のリスクが同一に扱えないことが分かってきたそうだ(Sci Rep 2016; 6: 38097)。日本の高齢者肺炎の多くを誤嚥性肺炎が占めることが分かってきており、予防やリスク層別化など新たな課題も見えてきている。門田氏は「今回のガイドラインでは誤嚥のリスクと誤嚥性肺炎のリスクを分けて提示するのみにとどまり、誤嚥性肺炎の定義を明確にするまでにはたどり着かなかった。このガイドラインを機に誤嚥性肺炎の定義が確立されていくことが望ましい」と述べた。