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frailtyと「フレイル」

エンド・オブ・ライフ・ケアと対をなす概念として、frailty(フレイル)があります。日本老年医学会はfrailtyを「フレイル」と表記し、「高齢期に生理的予備能が低下することで、ストレスに対する脆弱性が更新し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念」(日本老年医学会 2014)と定義しています。日本で「フレイル」が用いられる場合には、「高齢者の身体機能が低下をしてきているので、低下を予防する取り組みを進めよう」と、回復可能性に焦点を当てて示されることが多くなっています。

 しかし、そもそものfrailtyは何を意図して定義されたのでしょうか。確認すると次のように定義されています。

Observations to date support the concept of frailty as a clinical syndrome, the manifestations of which become apparent when physiologic dysregulation reaches a critical threshold.

(Geriatric Review Syllabus, AGS)

 つまり、「フレイル」という言葉を用いるときには、「まだ回復可能な動的な状態を強調して(だから予防が大事)」と用いられる立場もありますが、もともとは身体機能の低下をイメージして形成されてきた概念で、「その臨床徴候が出現するということは、生理学的な異常に対応する臨界点に至った(回復不可能な局面に入りつつある)」と 日本ではまだ意識されていない概念を含んでいます。

 フレイルの臨床徴候は、
① 筋肉量の減少、サルコペニアがある
② 筋力の低下を引き起こし、運動への耐性が低下する(疲弊、困憊)
③ 運動のパフォーマンスが落ちる(歩行速度の低下)
④ 身体活動量が低下する
⑤ 身体活動は低いにもかかわらず、栄養の摂取が進まずさらに筋肉量の低下を招く
――という循環です。
 現在のところ、この悪循環に入ると、初期はともかく、進行すると治療的介入を行ったとしても、残念ながら回復を図ることがますます難しくなります。その時に提供されるのが、エンド・オブ・ライフ・ケアです。

 なお、「エンド・オブ・ライフ・ケアの原則は、機能低下の過程を通して診断の時から、その進行性である条件と共にあるフレイルの人に適応可能である。(Koller 2014)」とされています。

フレイルの程度に応じた支援を考える
 フレイルに至った場合には、そのフレイルの程度に応じた支援が必要であり、
① 軽度のフレイルの場合にはセルフマネジメントへの支援
② 中等度のフレイルの場合には、同定とケースマネジメント
③ 高度のフレイルの場合には、先を見越したプランニングとエンド・オブ・ライフ・ケア
――の適応があります。
 軽度の段階のフレイルはともかく、中等度以降になるとリハビリテーションを含む介入が功を奏さず、エンド・オブ・ライフ・ケアが提供される時期であること、この段階では治療的介入も場合により害を招くことも多いことから、有害となり得る事象を避け(harm reduction)、療養生活の質を可能な限り維持することを重視した対応を優先して考える――ことが提唱されつつあります。