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女性のカラダノート:骨粗しょう症/下 治療薬副作用で顎骨壊死

骨粗しょう症治療で広く使われているビスホスホネート系(BP)製剤だが、副作用としてあごの骨が死ぬ顎骨壊死(がっこつえし)という合併症のリスクがあることはあまり知られていない。骨粗しょう症編の最終回は、歯科治療にも影響する薬との付き合い方を紹介する。

 ●抜歯契機、感染多く

 BP製剤による顎骨壊死は2003年に米国で報告された病気だ。あごの骨が歯茎から露出したり、下唇がしびれたり、進行するとうみがたまって皮膚に穴があいたりする。骨粗しょう症のほか、がん患者でも生じ、治りにくい。

 日本口腔(こうくう)外科学会の全国調査では、国内の顎骨壊死数は06~08年の263例から、11~13年の4797例へと急増。海外ではBP製剤の内服薬による発生率は患者10万人当たり1~69人に対し、注射薬は0~90人と多い。

 BP製剤だけでなく、デノスマブという治療薬でも顎骨壊死が起きる。原因や発生のメカニズムは解明されていないが、抜歯をきっかけに感染して発症することが多い。骨粗しょう症の治療には必要な薬なので、服用中にどう副作用を抑えるかが重要だ。

 ポイントは感染予防。「骨粗しょう症の治療前に歯科で点検を受け、掃除や抜歯を済ませて口の中をきれいにすることが必須だ。持病がある人や高齢者には欠かせない」と、千葉大の丹沢秀樹教授(口腔科学)は語る。投与が決まったら、歯科で定期的に口腔ケアを受けて清潔を保つ。

 ●医師の説明が不足

 一方、どんな時に休薬すべきかは現在、専門家の間でも議論がまとまっていない。東京都板橋区の主婦、矢作滋子さん(69)は15年、整形外科でBP製剤の注射を開始。薬の説明は特になく、食事や運動の指導もなかった。しばらくして手のひら大の三つ折りのカードをもらった。歯科受診の際に提示するカードで、患者が服用するBP製剤の商品名を伝え、「顎骨壊死があらわれることがあるので、抜歯はできるかぎり避けてください」と依頼する文面だった。

 17年に物がかめなくなり、かかりつけ歯科医を受診。歯の根が割れて抜歯が必要だったが、「BP製剤の注射を2年間している」と伝えると、休薬が必要と言われ抜いてもらえなかった。その後、整形外科に休薬を申し出たが認めてもらえず、通院を停止。結局、抜歯したのは昨年4月、東京都立の病院で。歯が痛くて物がかみづらい状態が1年以上続き、5本抜いた。

 顎骨壊死こそ免れたが、矢作さんは「骨密度は正常より少し低い程度のため、BP製剤の注射までしなくてもよかったのでは。整形外科でBP製剤を出す時には『歯の治療ができない時がある』と説明すべきだ。高齢者の多くは知らないはず」と訴える。

 ●予防の休薬不要

 東京歯科大の柴原孝彦教授(口腔外科)によると現在、顎骨壊死の予防にBP製剤の休薬は意味がないという。「顎骨壊死は感染が引き金。BP製剤を服用しても、感染原因の虫歯や歯槽のうろう、歯周病の治療は必要だ。かかりつけ歯科医が抜歯をためらって大病院に患者が集中する悪循環が起きている」と話す。

 医学的根拠に基づく治療はまだないが、日本骨代謝学会などが16年、予防や対応策の統一的見解を出した。これによると、初期段階の治療は抗菌性の洗口剤を使ったり、歯周ポケットを洗浄したり、抗菌薬を塗ったりする。進行した場合、抗菌薬を投与したうえで死んだ骨を手術で完全に取り除くことが推奨されている。