20本以上の歯を残すことを目標とした「8020運動」を、みなさんはご存じでしょうか。これは1989年に始まった国民運動です。当初はこの目標を達成した人は1割にも満たない状況でしたが、約30年後の2017年の調査では約5割以上の人が達成しています。歯を残すこができるようになった今、残った歯をどう使うか、つまり「口の機能」が注目され、その重要性を広めるために提案された概念が「オーラルフレイル」です。
オーラルフレイルは、直訳すると「口の機能の虚弱」です。口に関するささいな衰えを放置したり、適切に対応しないままにしたりすると、口の機能の低下、食べる機能の障害、さらには心身の機能低下までつながる負の連鎖が生じてしまうことに対して警鐘を鳴らした概念です。
こうしたオーラルフレイルの進行は、誰もが避けられない自然な衰え(老化)と違い、仲間との交流の減少などが原因で自身の口の健康への関心が薄れてしまうことなどと複合して生じる「不自然な衰え」です。早い段階かた適切に対応すれば回復できますが、放置すると老化に加え、さまざまな要因が口の機能低下などを悪化させてしまいます。
多くの人は、加齢とともに低下する運動機能、栄養状態、生活能力を「齢のせい」とあきらめ、自ら活動範囲を狭めたり、噛みにくいものを避けたりしがちです。口まわりの”ささいな衰え”から始まる現象は、自覚しないまま悪循環に陥り、やがて食欲低下や低栄養にまで至ってしまいます。こうした問題を人ごとでなく”自分ごと”として、意識的に対処することが最も重要なポイントと言えます。