心理的ストレスや発熱、激しい運動などの身体的ストレスによって発作性の頻呼吸が誘発され、PaCO2低下と呼吸性アルカローシスに基づく諸症状を呈する一過性の病態である。
診断のポイント
【考え方】
鑑別すべき疾患を示唆する所見がないことを確認する。もし症状が発作性でない場合、また努力性でない場合には、過換気症候群は否定的である。過換気発作を生じうる病態には、ほかに循環器疾患(急性冠症候群、不整脈、心不全)、呼吸器疾患(肺血栓塞栓症、気胸、喘息発作、COPD増悪)、代謝性疾患(糖尿病ケトアシドーシス)、甲状腺機能亢進症、てんかん発作などがあり、これらを鑑別除外しながら診断を進める。
【症状】
頻呼吸と呼吸困難、胸痛、口渇・発汗、手足・口唇のしびれ、テタニー、頭痛、めまい、失神など多彩である。問診上のポイントは、発作の頻度と持続時間、誘因(心理的ストレスになりうる背景)、回復時の状況などである。
【検査所見】
診察の基本に沿って、バイタルサイン〔意識レベル、血圧、脈拍、体温、経皮的酸素飽和度(SpO2)〕と呼吸音・心音などをチェックする。心電図と胸部単純X線所見に異常がないことを確認する。SpO2の低下を認める場合には、動脈血ガス検査を行い、pH、PaO2、PaCO2、HCO3-の数値から、器質的疾患を鑑別する。特にPaCO2低下と非代償性呼吸性アシドーシスを呈するにもかかわらず、胸部単純X線所見に異常のない場合は、肺血栓塞栓症を疑い、CTアンギオを行う。
私の治療方針・処方の組み立て方
背景に心理的ストレスに起因する強い不安が存在するので、まずは患者をリラックスさせ、頻呼吸が自然に鎮まる方向へ誘導する。それでも改善が得られない場合や、発作を度々反復する患者には薬物療法を行う。特に症状が著しく強い場合は、他疾患を十分に鑑別した上で、注射薬による鎮静を考慮する。
治療の実際
一手目 :呼吸法の指導
従来、ペーパーバッグ法が推奨されてきたが、口を覆うことでむしろ不安が増強するので使用せず、適切な呼吸法を指導する。まず、SpO2の値を患者に示しながら“酸欠”ではないことを理解させた上で、呼気時間を5秒以上かけるよう、医療者側も一緒に行ってみせる。過呼吸を抑制するだけで手足のしびれが改善することを落ち着いた口調で説明する。
二手目 :〈一手目に追加〉ワイパックス0.5mg錠(ロラゼパム)1回1~2錠(頓用)、またはソラナックス0.4mg錠(アルプラゾラム)1回1~2錠(頓用)
呼吸法を開始して30分経過しても症状の緩和が得られない場合は、内服薬を処方する。発作を反復し、しばしば来院する患者への対応は、あくまで対症療法として使用するにすぎないことを説明し、薬剤への依存性が生じないよう注意する。
三手目 :〈一手目または二手目に追加〉ホリゾン注(ジアゼパム)1回5~10mg(筋注)または2分以上かけてゆっくり静注
投与の際はパルスオキシメーターを装着し、しばらくの間は低換気状態に陥っていないか監視する。
ケアおよび在宅でのポイント
家族などのキーパーソンへも丁寧な説明を行い、背景因子を一緒に考えてもらう。発作を頻回に繰り返す場合には、精神科や心療内科の受診を勧める。社会福祉上の問題を抱える患者にはソーシャルワーカーや保健所窓口など、相談先を紹介する。