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「うんこ」語り合おう 学会設立、スマホゲームも 大腸がん発見、介護を左右

恥ずかしがらず、うんこについてもっと語り合おう―。そう呼び掛けて「学会」を設立した医師や保健師がいる。大便をチェックして大腸がんを早期に発見してもらおうと、スマートフォンのゲームまで開発した。高齢者介護では生活の質を左右する大事な問題。適切な排せつケアを学んでほしいとの思いもある。

 今年7月に一般社団法人「日本うんこ文化学会」を設立したのは、石川県小松市の保健師、榊原千秋(さかきばら・ちあき)さん(59)。在宅介護や難病患者の終末期ケアに関わる中で、便について悩む人が多いことを実感した。

 子どもの頃の便の失敗がきっかけで、高齢になっても排便障害(便秘)が続いていた男性、やせたいからと下剤を飲み続ける若い女性...。プライベートな問題ゆえになかなか相談できず、正しい知識も広がっていない。

 大学院で専門知識を学んだ榊原さんは排せつケアのプロを育てようと、2016年から独自に「POO(英語でうんこの意)マスター」の養成研修を各地で開催。これまでに医師や看護師ら約500人が受講した。

 学会設立を思い立ったのは、現場の実践で得た知見や科学的根拠を議論して学び合いたいから。学者や医療・介護職だけでなく、行政や企業など幅広い人たちに参加してもらおうと、専門用語ではなくあえて「うんこ」という言葉を掲げた。

 「豊かな便は豊かな人生につながる。『食育』と同じように『便育』を広げたい」と榊原さん。11月6、7日に腸内細菌の専門家やうんちの絵本作家らを招き、小松市で第1回学術集会を開く。

 「学会」を冠した団体は実はもう一つある。東京都内で在宅医療を手掛ける医師の石井洋介(いしい・ようすけ)さん(41)が13年につくった「日本うんこ学会」。学術団体ではなく、大腸がんなどの疾患予防を啓発する任意団体だ。

 石井さんは10代で難病の潰瘍性大腸炎を患い、大腸全摘手術を受けた経験がある。病院の勤務医時代、大腸がんの悪化に気付かず命を落とす患者を何人も目の当たりに。話を聞くと、多くの人が細い大便が出るなどの異常を感じていた。

 「大腸がんはほかに症状が現れにくく『サイレントキラー』とも呼ばれる。便の異変に早く気付いてもらえれば」。思い付いたのが、気軽に楽しめるゲームだった。

 うんこ学会の仲間と制作して昨年11月にリリースした「うんコレ」は、課金の代わりに排便報告をしてもらうことで進めるユニークなスマホゲーム。腸内細菌を擬人化した美少女キャラクターが、便の状態に応じて受診などをアドバイスする。

 石井さんは「平熱と同じように、まずは自分の普段の『平便』を知ることが大事。うんこで救える命があることを知ってほしい」と話している。