新型コロナウイルスの感染拡大で空間除菌剤への関心が高まる中、消費者庁が販売業者の行政処分に力を入れている。「身に着けるだけでウイルス除去」などと手軽さをうたうが、同庁は表示の根拠が乏しいとして注意喚起。医療情報のリテラシー(読解力)に詳しい医師は「臨床試験で効果効能が証明されていないことを、消費者は知っておくべきだ」と訴える。
ラッパのマークの胃腸薬「正露丸」で知られる大幸薬品(大阪府吹田市)は、空間除菌剤「クレベリン」シリーズで6商品を展開する。需要増に対応するため、2020年11月には工場を新設。コロナ禍前の約10倍に生産能力を引き上げた。
しかし今年1月、スプレー型や携帯型など4商品が景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして再発防止命令の対象に。一方、置き型の2商品は東京地裁が「実際の生活空間に浮遊するウイルスなどを除去する効果を、裏付ける合理的な根拠がある」として命令差し止めの仮処分を決定した。
消費者庁の命令を受け、対象商品を販売中止にした大手ドラッグストアも。東京都内に住む50代の女性は「効果があるのか疑問だった。手洗いの徹底やドアノブの消毒など自分でできる対策をしたほうが良いと思う」
厚生労働省はホームページで「消毒剤の有効・安全な空間噴霧方法が科学的に確認された例はない」と強調。「空間噴霧用の消毒剤として承認された医薬品・医薬部外品もない」とし、消費者庁も同様の見解を示す。
空間除菌剤による健康被害も確認されている。13年には1歳9カ月の男児が、置き型の除菌剤に添付されていたゲル化剤を誤飲。血液中の酸素が体内に行き渡りにくくなる「メトヘモグロビン血症」を起こした。
原土井病院(福岡市)の内科医、酒井健司(さかい・けんじ)さんによると、成人が健康被害に遭った例もある。呼吸困難で受診した38歳の男性が中毒性メトヘモグロビン血症と診断された。数時間前に自宅で除菌剤を使用したという。
酒井医師は「短時間で空気中のウイルスを不活化できる濃度の化学物質は、人体に有害である可能性が高い」と指摘。「空間除菌用品は『医薬品』ではなく『雑貨』として販売されている。コロナ対策に気休めで使うにはリスクが高いのではないか」と話した。