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保険証の廃止 見直しは今からでも遅くない

 身近な健康保険証を廃止し、トラブルが続出しているマイナンバーカードに一本化するのは無理があろう。廃止方針をいったん凍結し、国民の不安を 払拭するのが筋だ。

 2024年の秋に保険証を廃止し、マイナカードに一本化する関連法が成立した。来秋以降、患者はマイナカードを医療機関に提示し、診療を受けることになる。

 政府は行政のデジタル化を進めるため、マイナカードの普及を図っている。保険証の機能を持たせるのもその一環だ。

 だが、マイナカードを巡るトラブルは後を絶たない。コンビニで別人の住民票が交付されたり、給付金の受取口座が、別人の口座で登録されていたりした。

 とりわけ深刻なのは、マイナ保険証に関する問題だ。他人の情報がカードにひもづけられていたケースが7300件あった。

 行政文書は、あとで修正できるかもしれないが、医療に関する手違いは、国民の健康や生命に重大な影響を及ぼす恐れがある。政府は事態を軽視してはならない。

 そもそも政府は昨年6月の段階では、現行の保険証とマイナ保険証の「選択制」を打ち出していた。希望すれば、カードだけで受診を可能にするという構想だ。だが、河野デジタル相が10月、唐突に来年秋の保険証廃止を表明した。

 カードを持たない人には、健康保険組合などが「資格確認書」を発行するという。しかし、確認書の取得は本人の申請が前提だ。1年ごとに更新する必要もある。

 政府は、病気や障害を理由とした代理申請も認める方針だが、具体的な運用は検討中という。

 現在、何ら不都合なく使えている保険証を廃止し、事実上、カードの取得を強制するかのような手法が、政府の目指す「人に優しいデジタル化」なのか。

 マイナ保険証の不具合が相次いでいることを踏まえ、医療関係団体などは保険証の廃止に反対している。医療現場から懸念の声が上がるのも無理はない。

 法律が成立したからといって、制度の見直しは不可能だ、と考えるのは早計だ。

 政府は1980年、納税者番号の一種「グリーンカード制度」を導入する法律を成立させたが、政財界から批判が噴出したため、5年後に法律で廃止した。

 マイナ保険証の見直しは、今からでも遅くはない。トラブルの原因を解明し、再発防止に努めるのが先決だ。当初の予定通り、選択制に戻すのも一案だろう。