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歯周病、大腸がんに関係か 国内外で相次ぐ研究報告 早期治療がメリット大

 歯と歯茎の間に細菌が繁殖し、歯がぐらついたり口臭がしたりする「歯周病」。その菌の一つが、日本人で一番多いがんである大腸がんの発生や悪化に関係しているらしいとの報告が国内外で相次いでいる。横浜市立大の研究チームは、歯周病治療によって便に含まれるこの菌が減ること、口の中と同じ遺伝子タイプの菌株が大腸がん組織にもいることを突き止めた。将来の予防、治療法の開発につながるとともに、歯周病治療の重要性を示す成果だ。

 ▽便から検出

 厚生労働省の資料によると、歯と歯茎の間に菌の温床となる「歯周ポケット」がある人は高齢化に伴って増え続け、45歳以上では過半数を占める。また、すべての年齢層で約4割の人に歯茎の出血が認められた。

 大腸がんとの関係で注目されているのは、歯周病菌の一つ「フソバクテリウム・ヌクレアタム」。口の中のありふれた嫌気性細菌だという。

 2012年、大腸がん患者のがん組織や便からこの菌が検出されたと海外から報告があって以降、各国の専門家がその関係性や菌の役割について研究している。

 横浜市立大の日暮琢磨(ひぐらし・たくま)講師(消化器内科)によると、その後の内外の研究で、この菌が大腸がん自体に多くみられること、細胞レベルの研究では、細胞活性化に関わるメカニズムに関与し、大腸がんを悪化させる疑いが強いこと、この菌の働きで大腸粘膜の防御機能が損なわれることなどが次々に報告された。

 ▽特定の菌株?

 日暮さんらの研究チームも21年、大腸がん患者に歯周病の治療を受けてもらうと、歯周病が治った患者では便中の菌が減ることを突き止め、23年には、大腸がん患者の唾液とがん組織から得られた菌株が、遺伝子レベルで一致していることを報告した。

 消化管経由か血管経由かは不明だが、口腔(こうくう)から大腸へたどり着いた菌が、大腸がん進行に関与している可能性を示している。菌株ごとに働きが異なるのではないかとみており、今後どの株がどんな「悪さ」をするかを解明するのが目標だ。

 ただし、菌と大腸がんの関係が分かっても、ピロリ菌と胃がんのようには対策は容易ではない。「ピロリ菌は除菌できるが、ヌクレアタムはできない。われわれの研究でも、歯周病を治療しても唾液中の菌の濃度は下がらなかった」からだ。

 ▽定期チェックを

 では、どう対処したらいいのだろう。

 同じ研究チームの一人で横浜市立大の來生知(きおい・みとむ)診療教授(口腔がん治療)は「歯周病を治す意義はほかにもたくさんある」と話す。高齢でもきちんとかんで食べられることは虚弱(フレイル)防止にも必須だが、來生さんによると、歯周病菌の全身への悪影響は大腸がんばかりでないらしい。

 來生さんによると、口の中にいる菌は約700種といわれ、さまざまな菌が生みだす毒素などが全身を巡り心血管系の疾患や糖尿病などを悪化させることが分かっている。また、発がんとの関係を疑われる菌はほかにも見つかっている。

 ただ厄介なことに、歯周病は痛みや腫れ、出血など典型的な症状がなくても進行してしまう。「さほど気にならない状態でも、50歳を過ぎて一気に歯を失う人が少なくない」という。

 來生さんはまずは歯科で定期チェックを受けることを強く勧める。歯周ポケットの中を掃除し、菌が固まってつくる「バイオフィルム」を除去してもらう。同時に、効果的な歯磨き方法の指導を受け、普段から食後に歯をきれいに。「大事なのは、家庭や職場でこれを当たり前の習慣にすることです」と話した。