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「歯が痛い」で救急車、7割が「軽症」出動 重症搬送が遅れる恐れ、対策に有料の「民間救急」

高齢化の進展に伴い、滋賀県内で救急車の出動件数が大きく増加している。2023年は7万5766件(速報値)と過去最多を更新し、この30年でおよそ3倍に増えた。昨年初めて2万件を超えた大津市では、入院には至らない「軽症」での出動が約7割を占めており、市消防局が「救えるはずの命を助けるため適正に利用して」と市民へ呼びかける事態にもなっている。限られた救急車が緊急性の高い患者に使われるようにと、県内では軽症者や転院患者を企業が有料で搬送する「民間救急」の利用も広がっている。

 県の集計によると、23年の出動件数は前年から約4400件増加し、2年連続で過去最多を更新した。大津市でも昨年の救急出動が2万795件と最多を記録。利用者は65歳以上が全体の約65%を占めており、高齢化の進展が出動増加の主な要因という。

 市消防局によると、入院の必要がなく診察後に帰宅する「軽症者」が約7割を占めた。症状に緊急性は無いものの、高齢者などが自力で移動できずに救急車を呼ぶケースもあるという。119番通報があってから現場到着までにかかった時間は平均9分47秒で、13年の7分51秒と比べて約2分間長くなった。

 同局は「このような状態が続けば、心肺停止状態や大ケガなどで緊急搬送する必要がある人のもとに、救急車の到着が遅れてしまう可能性がある」とする。救急車を呼ぶかどうかの判断には、総務省消防庁の「全国版救急受診アプリQ助」などを活用するよう呼びかけている。

■広がる「民間救急」の利用

 高齢化で救急車の出動件数が増え続ける中、緊急性の乏しいケースを含む全ての搬送を、消防機関が無料で担い続けるべきなのか。一部自治体では病院側が軽症の受け入れを有料にするなど新たな動きも出ている中、滋賀県では企業が有料で搬送する「民間救急」の利用も広がっている。

 中には、歯が痛いと救急車を呼ぶ人や、同じ人が何度も繰り返し要請してくるケースも。軽症者への対応が増え続けると救急車の到着が遅れる恐れもあり、同社は「高度な技術を持つ民間救急を増やし、消防と民間ですみ分けをしていく必要がある」との思いで事業を拡大してきた。

 特に同社が重視するのは、患者が病院間を移動する「転院搬送」を民間が担うことだ。

 総務省消防庁の集計によると、2023年は全国の救急出動件数のうち7・3%を転院搬送が占めた。自前の救急車を持つ病院でも人手が確保できないなどの理由で、消防に搬送を要請する例は後を絶たないという。

 全国的に救急の態勢がひっ迫する中、国は「緊急性の乏しい転院搬送については、本来消防機関が実施するものではない」とし、適正な利用を求める通達を16年に出した。しかし、病院側の態勢や意識の改善は十分には進まず、件数は増加傾向が続く。

 一方、同社は県内の基幹病院とも連携して転院搬送を担っており、時には北海道まで送ることもある。費用は患者負担だが、手厚いケアに感謝の気持ちを示す利用者が多いという。

 全国の消防では今、一定の要件を満たす民間事業者を「患者等搬送事業者」として認定する動きも広がってきた。例えば大津市消防局では3社を認定しており、県内では近年、民間救急へ新規参入する企業も出ている。一方で、消防と民間が日常的に連携する態勢整備は十分に進んでおらず、事業者によって知識や技術に差があるのが実情だ。