地震や大雨の際、日常的に人工呼吸器などを必要とする「医療的ケア児」の避難を地域で連携して支援する取り組みが始まっている。寝たきりの子は移動が難しく、例えば停電で医療機器が使えなくなれば命に関わる。スムーズに避難できるよう、保健所と地域の福祉施設などが事前に移送や受け入れの段取りを整え、災害に備える。
7月下旬、大阪府茨木市。最大震度6弱の地震が発生したとの想定で、府茨木保健所が医療的ケア児を対象とする避難訓練を実施した。先天性の障害のため人工呼吸器を付ける男子児童(8)と母親(40)が参加した。
「大きい地震あったけど大丈夫?」。いつも利用している訪問看護事業所が安否確認の電話をすると、母親は「停電している」と訴えた。人工呼吸器のバッテリーは電源がなければ、長くても半日しか持たない。
事業所などの情報で保健所が福祉施設側に連絡。母親が児童を抱きかかえてバギー型車いすに乗せ、迎えに来た社会福祉協議会の車で3キロ先の施設へ。施設の職員が発電機を稼働させ、人工呼吸器をつないだ。看護師が体調を確認。施設の職員が「避難が完了しました」と保健所に連絡し、訓練は終了した。
茨木保健所は以前、災害が起きた際は自力での避難を呼びかけていた。医療的ケア児の保護者から不安の声が寄せられ、方針を転換。昨年1月以降、発電機を備え、ケア児の受け入れが可能な施設計12カ所と避難に関する協定を締結している。災害時は保健所が施設を手配し迅速に移送する。
男児は普段、自宅からの外出でも、人工呼吸器や吸入器、薬、おむつなど大量の荷物に、車の運転と介助者が必要。母親は「災害時に親だけで守ることはできない。地域の理解や協力は欠かせず、こうした取り組みが他の地域でも進んでほしい」と話した。
地域でケア児の避難を支援する動きは、青森県弘前市や千葉県香取市、新潟県新発田市、鹿児島県薩摩川内市など各地で広がりつつある。
ケア児は、厚生労働省によると全国で推計約2万人いる。改正災害対策基本法は、ケア児や高齢者らの「個別避難計画」の作成を自治体の努力義務とする。だが、避難計画は自力で逃げることを前提としているほか、避難する際の支援者が見つからないケースもあるなど課題は多い。
内閣府などによると、今年4月時点で約92%の自治体が計画作成に着手しているものの、計画に基づく訓練を実施したのは約17%にとどまっている。茨木保健所の担当者は「日頃から保健所と施設が密に連携してきた。地域でケア児の命を守るためには顔の見える関係を築くことが重要」と語った。