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透析患者の骨粗鬆症に対するデノスマブ、骨折リスク低・心血管イベントリスク増

ビスホスホネートかデノスマブか、直接比較した研究はなされていない

 京都大学は1月8日、透析患者の骨粗鬆症に対するデノスマブはビスホスホネートと比較して、骨折リスクを低減させる一方で、心血管イベントのリスクを増加させる可能性があることを、電子レセプトデータを用いたコホート研究により明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学研究科の桝田崇一郎客員研究員、深澤俊貴特定講師、川上浩司教授、松田秀一教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Internal Medicine」オンライン版に掲載されている。

 骨粗鬆症は、高齢化の進行とともに患者数の増加が予想され、重要な健康問題となっている。特に進行した慢性腎臓病(CKD)を有する患者では、そのリスクが顕著に高まる。一般的な骨粗鬆症治療では、経口ビスホスホネートが第一選択薬であるが、腎臓から排泄されるため、CKD患者、特に透析が必要なほど重症のCKD患者においてはその安全性に懸念がある。

 一方、デノスマブは肝代謝のため、透析患者における骨粗鬆症治療の選択肢として広く使用されている。しかし、デノスマブ使用後の低カルシウム血症などの副作用や、心血管イベントへの影響については十分なエビデンスが確立されていない。これまで、透析患者におけるデノスマブとビスホスホネートの安全性と骨折予防効果を直接比較した臨床試験や大規模な観察研究は行われておらず、そのため臨床現場での適切な治療選択が困難となっている。

デノスマブはビスホスホネートに比べ、骨折リスク45%低減も心血管リスク36%増加

 研究では、DeSCヘルスケア株式会社が保有する電子レセプトデータを利用し、可能な限り臨床試験を模倣する「標的試験エミュレーション」という最新の観察研究の枠組みのもと、透析患者の骨粗鬆症に対するデノスマブと経口ビスホスホネートの有効性と安全性を比較するコホート研究を実施した。対象は50歳以上の透析患者で、骨粗鬆症の診断を受け、2015年4月~2021年10月までの間にデノスマブもしくは経口ビスホスホネートを新規に開始した1,032人(デノスマブ群658人、経口ビスホスホネート群374人)だった。薬剤使用開始から3年間の骨折と心血管イベントの発生リスクを評価した。

 結果、デノスマブは経口ビスホスホネートと比較して、骨折リスクを45%低減したが、心血管イベントのリスクを36%増加させた。これらの結果は、透析患者の骨粗鬆症治療薬としてデノスマブが骨折予防において有効である一方で、心血管イベントのリスク増加と関連している可能性を示唆している。

臨床では、患者ごとのリスクとベネフィットを慎重に評価を

 今回の研究は、透析依存患者における骨粗鬆症治療の選択に重要な示唆を与える結果となった。デノスマブは骨折予防に有効であるものの、心血管イベントリスクの増加の懸念が示唆された。臨床現場では患者ごとのリスクとベネフィットを慎重に評価する必要がある。「今後の研究では、これらの結果をさらに検証するための大規模な臨床試験や、心血管イベントリスク増加のメカニズムを解明する研究が必要だ。また、他の骨粗鬆症治療薬との比較や、長期的な安全性と有効性を評価する追跡調査も重要となる。透析患者の生活の質向上と生命予後の改善を目指し、より安全で効果的な治療戦略の確立に向けた研究が期待される」と、研究グループは述べている。