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頭頸部がん<5>外見維持も考慮し治療

 頭頸部がんについて、日本頭頸部癌学会理事長で、国立がん研究センター中央病院副院長の吉本世一さんに聞いた。

 ――頭頸部とは。

 「舌を含む口の中の口腔、耳と鼻、のどを中心とした頭や首の部分を指し、脳と目は除きます。のどは、食道につながる咽頭と、気管につながる喉頭に分かれます。耳鼻咽喉科の『咽喉』は、喉頭と咽頭の両方、のど全体を意味します。約1万人いる耳鼻咽喉科の医師のうち、約500人が頭頸部がんの専門医に認定されています」

 ――がんの原因は。

 「空気や食べ物と飲み物の通り道となるのどでは、たばことアルコールが、がんのリスクを高めます。子宮頸がんを起こすことで知られるヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染も原因となります。ウイルスによるものは昔から一定の割合であったとみられますが、近年のワクチン接種の議論などから、中咽頭がんで注目されるようになりました」

 ――患者の傾向は。

 「甲状腺がんを除くと、年間でのべ3万人が頭頸部がんを発症します。最も多い口腔で全体の4分の1を占め、下咽頭、喉頭、中咽頭と続きます。高齢になるほど、がんになりやすくなることを考慮し、年齢を調整して全体の発症傾向を分析した場合、患者が減っている部位もあります。鼻の両脇にある空洞、上顎洞にできるがんは、原因となる副鼻腔炎が抗菌薬治療で減ったため、減少しました。喫煙率の低下に伴って喉頭がんもトータルでは減少しています。ただし、男性ほど喫煙率が落ちていない女性では、あまり減っていないのが課題です」

 ――治療のポイントは。

 「根治を第一としつつ、場所が顔や首であるため、見た目の維持と、機能の温存を考慮した治療法を検討することが重要になります。がんとその周辺を大きく切り取らなければならない場合は、空いた部分に、太ももやおなかの皮膚とその下の組織を血管とともに移植する再建手術を同時に行います。口やのどでは、食べ物をかんでのみ込んだり、声を出したりするのに影響することがあります。再発のリスクを考えながら、がんの周囲をどこまで切り取るか注意深く検討することになります」

 ――再発や転移の場合は。

 「手術が難しい場合は放射線が有効ですが、一度放射線治療を受けた場所に再度、根治を狙っての照射はできません。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を用いた薬物治療が中心となり、患者の体調や持病などに合わせて薬を選んでいきます」

 ――早期に発見するには。

 「自覚症状がない場合が多いです。首にしこりができるなどの違和感を覚えたら、早めに耳鼻咽喉科で調べてもらいましょう。大腸や肺のがんと違って自治体による定期検診はありませんが、歯科検診や胃カメラ検査で見つかる場合もあります」(江村泰山)(次は「能登地震1年 被災地から」です)