今月8日、「内臓脂肪・腹囲減少薬」をうたった「アライ」が大正製薬(東京都豊島区)から発売された。医師の処方箋不要で、薬局・薬店で買える一般用医薬品だが「要指導医薬品」に該当し、薬剤師から説明を受けることが条件だ。消費者の関心も高い新薬の実力を探った。
●脂質分解吸収を阻害
アライは膵臓(すいぞう)から分泌され小腸で脂質を分解し吸収を助ける消化酵素、リパーゼを阻害する薬剤だ。アライの有効成分である「オルリスタット」によってリパーゼの働きが阻害されると、食べ物に含まれる脂肪分が体内に吸収されず、便として排せつされる。同社は「食べた脂肪の約25%が排せつされると期待できる」と説明する。服用方法は食事中または食後1時間以内に1カプセルを1日3回。価格は6日分が税込み2530円、30日分が同8800円。
内臓脂肪の減量が重要なのは、蓄積すると糖尿病や脂質異常症、高血圧などの多くの生活習慣病になりやすいためだ。日本肥満学会の横手幸太郎理事長(千葉大学長)は「内臓脂肪の脂肪細胞が増えると、血糖値や血圧に作用する生理活性物質のバランスが崩れ、生活習慣病の発症につながる」と説明する。このため同学会は、肥満や肥満症の人に対して「体重の3%以上の減量」を呼び掛けている。
同学会の定義によると、肥満と肥満症は主に体格指数(BMI)と健康障害の有無で分けられる。体格指数は、体重(キロ)を身長(メートル)の2乗で割った数値で、25以上が肥満に該当する。肥満症は、肥満に加え糖尿病や高血圧など11の健康障害(疾患)が一つ以上ある場合だ。BMI35以上の場合は健康障害がなくても「高度肥満症の可能性あり」、BMI35以上で健康障害があれば「高度肥満症」として治療対象となる。アライの対象はBMI35未満かつ健康障害がない人で、肥満症の「予防薬」にあたる。
アライは2007年に米国で一般用医薬品として承認された。大正製薬は08年に海外の製薬会社と導入契約を結び、開発に16年をかけた。19年に承認申請した後の審査も23年まで約4年という異例の長期に及んだ。同社は「『腹囲減少』という新規の薬効や適正使用できるかという点などの説明に時間を要した」と話す。
●販売に厳しい条件
「やせ薬」としての安易な使用が懸念されるため、販売条件は厳しく決められた。購入者は薬剤師と対面し、腹囲(男性85センチ以上、女性90センチ以上)や生活習慣改善への取り組み状況の確認を受ける。更に服用中も体重や腹囲の記録が求められる。同社は使用者が簡単に生活習慣を記録できるよう、スマートフォン向けアプリを開発。また適正販売のため、薬剤師もアライ専用の研修プログラム修了者のみが販売に従事できる体制とした。出荷先も条件を了承した薬局・ドラッグストアに限定し、同社から直接販売する。
●「漏れ」は起こる
服用の際に注意が必要なのが、薬の働きに伴う特有の症状だ。脂肪分をそのまま排せつするため、便や油の漏れが起こるという。臨床試験を通じて報告された消化器系の副作用は440例中180例で全体の約4割。具体的な症状としては、油の漏れのほか、便や油を伴う放屁(ほうひ)や油性排せつ物、脂肪便、便失禁などが挙がった。
これらの症状に対し、同社は「脂肪分の多い食事を控える」「下着に便漏れパッドやナプキンをつけておく」「替えの下着を準備しておく」「服用開始は終日自宅で過ごせる休日にする」「おならが出そうな時はすぐにトイレに行く」「外出時はトイレの場所を把握しておく」といった対策を呼び掛けている。