年末年始が近づき、酒席が多い季節になった。日ごろのストレスを発散し、楽しい時間が過ごせる一方、二日酔いや体への負担も気になる。酒とうまくつき合うにはどうしたらいいだろう。【五味香織】
酒造団体や医療機関などでつくるアルコール健康医学協会(東京都文京区)によると、体に取り込んだアルコールは約20%が胃から、残りの大半は小腸から吸収されて肝臓に届く。肝臓では最初に「アルコール脱水素酵素」の働きでアセトアルデヒドに分解され、次に「アルデヒド脱水素酵素」で無害な酢酸となり、やがて尿や汗として体から排出される。
このシステムで処理しきれないアルコールは血液とともに体を巡り、脳をマヒさせる。これが「酒に酔う」という状態だ。
厚生労働省は、健康作りの目標を定めた「健康日本21」で、適度なアルコール摂取量を1日20グラムとしている。ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合が目安。同協会の古屋賢隆常務理事は「アルコールは、適度な量なら善玉コレステロールを増やすとされ、死亡率を下げる」と話す。だが、日本人の約4割はアルデヒド脱水素酵素がなく、分解が滞ってしまうという。いわゆる「酒に弱い人」で、飲むと気分が悪くなるなどの症状につながる。
アルコール依存症に詳しい重盛憲司・洗足メンタルクリニック院長は「酒を飲んでいるうちに強くなる人もいるが、奈良漬けを食べるだけで顔が赤くなるような場合、強くなるのは難しい」と話す。自分の体質を見極めることが大切だ。
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酒に強い人でも、飲み方には気をつけたい。水や炭酸で割るなどアルコール度数が低いものを、時間をかけて飲むのがよいとされる。強い酒を味わいたい人は、別のグラスで水分を補給しながら飲む方がいい。いろいろな種類の酒を飲む「ちゃんぽん」について、重盛さんは「体内で混ざることではなく、飲むものを変えることで自然とアルコール量が増えてしまうのが問題。酒に強い人でも『酩酊(めいてい)初期』ぐらいまでが、酒を楽しめる状態」と指摘する。
酒を飲んだ翌日に体調が悪くなる場合、二つの原因が考えられる。一つは酒が代謝しきれていないケースだ。同協会によると、中瓶1本のビールを代謝するのに約3時間かかる。飲酒量が多かったり深夜まで飲み続ければ、翌日まで体内にアルコールは残る。
この場合の対策は、肝臓で代謝が進むのを待つしかない。入浴や運動は、血液が肝臓から減って全身に回り、代謝を遅らせるので逆効果だ。重盛さんは「肝臓が働けるよう、できれば寝て過ごすのがいい」とする。
一方、代謝が済んだころになっても不調を感じる場合は、体内の水分バランスが乱れている可能性がある。むくみを感じたり、のどが渇くのは、酒で拡張した血管から水分が出てしまい、血管が脱水状態になっている現象だ。水分を補給しながら、風呂などで汗をかき、むくみを取り除くとよい。
古屋さんは「アルコールの代謝には糖が消費されるので、果物を摂取するといい。ビタミンCもアセトアルデヒドの分解を加速する。体液に近いスポーツドリンクは吸収が速いので水分補給に効果的」と話す。
酒を飲まずに肝臓を休ませる「休肝日」は、どのくらい必要か。重盛さんは「健康日本21で示された飲酒量なら、肝臓への影響面では休肝日を設けなくても大丈夫だろう。ただ、毎日飲むことで精神的に依存していく可能性はあり、週2日ぐらいは休肝日を作り、酒に頼っていないか確認すべきだ」と話す。
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酒の代謝の助けになりそうなドリンク類も増えている。肝機能を改善するとされるウコンを使った「ウコンの力」を販売するハウス食品によると、04年の発売以来、売り上げは増加し、10年度の出荷額は180億円。同社広報・IR室は「健康志向が強まっていることも背景にあるのでは」とする。
動物の肝臓から抽出した「肝臓水解物」を使った医薬品「ヘパリーゼ」シリーズを販売するゼリア新薬工業は11月末、同様の肝臓エキスを使った清涼飲料水をコンビニエンスストアで発売した。同シリーズは例年、12月の売り上げがほかの月の1・5倍に上るという。薬剤師でもある同社の小林平明・コンシューマーヘルスケア学術企画部長は「血液の約2割が集まる肝臓は常に働いている。酒の席の1時間ぐらい前にドリンク類を飲み、肝臓をいたわって」と話す。
古屋さんは「酒は人生の潤いにもなる。無理な飲み方をせず、いい気分を感じるぐらいで楽しんでほしい」と呼び掛ける。