毎日新聞社 1月4日(水) 配信 香山リカのココロの万華鏡:まず目の前を大切に /東京
昨年末に雑誌の取材を受けて、「来年のご自身の目標やキーワードは何ですか」と聞かれたのでこう答えた。 「えーと、目標はとくになくて、キーワードは“とりあえず”と“それなりに”ですね」
それを聞いた編集者は、「はあ? 冗談でしょう?」と言いたげな顔をしたのだが、私としては、正直な気持ちを話しただけだ。
診察室でも年末には、この「それなりに」「とりあえず」という言葉を何度も聞いた。大震災、長引く不況、その上、患者さんたちにとっては病気との闘いもあるわけだから、誰もがいわゆる“いっぱいいっぱい”。その中で迎えた年末に、「まあ、自分なりになんとかがんばって、ようやくここまで来た感じですね」「とりあえず来年も、いまのペースでゆっくりやっていきますよ」という会話になるのは、ごく自然のことだろう。
いや、それどころではない。この苦難の状況の中、たとえ「とりあえず」であっても年末までこぎつけ、そして新しい年を迎えるというのは、実はたいへんなことなのだ。
「とりあえず、それなりにやってきた。それって、とてもすごいことじゃないですか。あなたが一生懸命、生活や治療に取り組んできたからこそ、そう言えるんですよ」
ふだんの会話の中では、「とりあえず」や「それなりに」という言葉は、決して良い意味では使われない。なんだか中途半端で終わったとか、不満足なままだった、といったあいまいな感じがするときに使われることがほとんどだ。
とはいえこの時代、高いところにある理想とか完璧な成功だとかを追い求めても、そこにはなかなか到達しない。それどころか、私たちの毎日には、いろいろなアクシデントも起これば思わぬ悩みごとがわいてくることもある。
そんな中、すべてを「もうダメだ」と投げ出すことなく、「とりあえず、今日一日」と自分に言い聞かせながら目の前にあることに取り組む。
その積み重ねは、決して簡単なことではない。
私に限らず、これといった今年の目標がまだ立っていない、という人もたくさんいるだろう。そういう人に私はおすすめしたい。「まずは、とりあえず今日だけ、自分なりにやれることをやってみる、というのはどうでしょう」。私も遠くや高いところはあまり見ずに、まずは目の前の人やものを大切にしながら、ゆっくりと生きていきたい。今年もよろしくお願いします。
この投稿を拝見して考えさせられました。皆さんも意気込みすぎないように気をつけましょう!